生活
2015/07/23 Thursday
営業マンとハンモック
「やっちまった」
僕の名前はマイクラトオル。35歳独身。
彼女はいるが、結婚はまだ考えていない。
結婚はもうちょっと落ち着いてから、もっと余裕ができてからでもいいのかなって思って。
落ち着いてから?余裕ができてから?
そんな日、いつになったらくるんだよ…
ぼやきながら、そんな自問自答も飲み込んで、今日もがむしゃらに働く。
冒頭の「やっちまった」に戻るが、僕は仕事で大きなミスをしてしまった。
しかも、自分の会社だけでなく、取引先に大きな損失を与えてしまうようなミスだ。
僕の上司であるキョウさんがよく言っていた。
仕事のミスはしょうがない。問題は二つある。
ひとつは、ミスの原因もわからないままにして、また同じミスをすることだ。
もうひとつは、ミスの原因がわかっていてもまた同じミスをすることだ、と。
…今回、僕は後者をやってしまった。
事前にきちんと確認したにも関わらず、だ。
しかも、今回で三回目…言い逃れはできない。
キョウさんと僕は取引先を尋ねた。そしてひたすら謝り続けた。
よくあるストーリーだと誠意が通じれば許してもらえるのかもしれない。
けど現実はそんなもんじゃない。
取引先の担当は、当たり前のようにこう言った。
「今後の取引については保留にさせてくれ」と。
一体僕は何をやってるんだ。
こんなことがしたかったんじゃないだろう。
―
会社へ戻るべく、僕とキョウさんは無言で車に乗り込んだ。
重苦しい空気が僕らを包んでいる。僕が作ってしまったこの空気。結果。
もう、辞めるしかないか…
約30分ぐらい経過した頃だろうか。沈黙が永遠とも思えた頃、キョウさんが口を開いた。
「トオル、俺良い物持ってるんだ。ちょっとある場所によっていこう」
僕は何がなんだかわからなかったが、「すいません」と言って頷いた。
・・・
キョウさんに連れられた場所は海だった。
…懐かしいな。子どもの頃はよく母さんと来たっけ。
いつしか仕事に忙殺され、そんな思い出も忘れかけていた。
海へ着くやいなや、キョウさんはトランクから折りたたみ式のハンモックを取り出した。
「これ折りたたんでどこででも使えるんだ。いいだろ?」
キョウさんに促されるまま、僕はハンモックに乗った。
波の音とシンクロするようにハンモックが揺れる。
これまで感じたことのないような不思議な気持ちになる。
自分の過ちもこの揺れの中では不思議とどうでもよくなってくる。
だけどそれは、ただここではないどこかへ逃げでるだけだった。
キョウさんが口を開く。
「俺はミスは責めない。けど今回のミスは3回目だ。
しかも、お前の不注意が招いた損失だ。」
「すいません・・・俺・・・辞表を書きます・・・」
「辞表だ?ふざけるな。損失を出したまま会社を去るのか?
取り返せ。そして会社に大きな利益をもたらせ。」
僕は胸が熱くなった。僕は一体なにをやっていたんだ。
なんでこんなミスを犯したんだ。
ふざけるな。二度とこんなミスはするな。
そしてミスを取り返すんだ。
「トオル、会社に戻ったら反省会だ!
そしてまた出なおせ!いいな!」
「・・・はい・・・っ・・・!」
僕はミスをした。
だけどそんなの、地球の歴史に比べたらどうってことない出来事だ。
長い人生。へこむことある。
だけど、また立ち上がればいいだけだ。
明日からまた頑張ろう。
負けるな、自分!
・・・そう。こうして彼はまた立ち上がることができました。
仕事のミスでやけになってしまった心を
いとも簡単に癒してくれたハンモック。
不思議なアイテムですよね。
フォッフォッフォ。
次に乗るのは
ホラ、あなたですよ?