生活
2015/01/26 Monday
ハンモックと僕とときどき君
あの頃二人で夕暮れまで遊んだ小さな空き地に、
ビルが建っていた。
昔アメリカに住んでたおじちゃんが持ってきてくれた網状のシート。
おじちゃんはうちの裏の空き地の木にそれを結びつけた。
「ほら、こうやって結びつけるんだ。
さあ、寝っ転がって見なよ。
寝っころがって空を見上げることができるおじさん特製のブランコだ。」
おじちゃん特性のブランコ。
それがハンモックだった。
アメリカに住んでたおじちゃんが僕にとってどういう存在かわからなかったけど、
ある日お母さんが泣いていた。
幼い僕には詳しい事情なんてわからなかったけど、そのおじちゃんとはもう会えなくなるんだなって思った。
おじちゃんと会えなくなっても僕は暇を見つけてはハンモックに寝転がった。
夏の暑い日。
蝉の鳴き声を聞きながら、ハンモックの上で袋に入ったかき氷を食べる。
秋の切ない日。
学校で友達との別れがあった。
落ち葉が散っていくのをハンモックにゆられながら見てた。
冬の悲しい日。
お母さんとケンカした。
こんな日にハンモックの上で寝るなんて馬鹿げてる。
でもハンモックの上は僕だけの秘密基地。
あったかい毛布を2枚もって、ハンモックに揺られた。
春の優しい日。
野球帽かぶって日向ぼっこ。
「何やってるの?楽しそう!私も乗りたいな」
笑顔の君は今まで話したことがなかったけど同じクラスだったんだね。
何度目かの春の夜。
寝っ転がって空を見ることができるおじさん特製のハンモックに揺られて、二人で星空を見上げた。
僕は初めて未来を語った。
そして、ずっとこんな風に時間が流れるんだって思った。
それから次の季節を待たずに、ずっと使ってたハンモックの紐が切れた。
切ない秋がまた来て、悲しい冬が終わる頃、
19歳の僕は一人で東京へいくことにした。
人が大人になる瞬間ってどんなときなんだろう。
もちろんそんな瞬間なんてなくて、日々の積み重ねと経験が自然と僕らを大人にしていくのだろうけど、
僕にはいくつかのシーンが今も心の奥深くに残っていて、
そこで少しずつ大人になっていった気がしてる。
29歳になった。
中途半端だった夢に敗れて、実家に帰ってきた。
あの頃の空き地はどことなく小さくなっていた。
今の時代は便利なもので、インターネットでいろんなものが買える。
僕は、ハンモックを買った。
おじさん特製のハンモックじゃないけれど、
自分で組み立てたらどこでだってハンモックに揺られることができる自立式ハンモック。
いろんなことに疲れて、いろんなことを考えて。
あの空き地でハンモックに揺られていた。
そして僕は何かを期待していた。
何かを期待して、休日の暇な日は空き地でハンモックに揺られていた。
「わっ、ブランコだ!」
子どもが駆け寄ってきた。
「これブランコみたいでしょ?ハンモックって言うんだよ。
乗ってみる?」
「うん!」
子供は嬉しそうにハンモックに揺られた。
おじさん特製のハンモックじゃないけど、僕がこの子にとってはそんな見知らぬおじさんだ。
「すいませんー!うちの子が。ホラ何やってんのー?!」
そう言って駆け寄ってきたのは、
あの頃の君だった。
映画みたいなハッピーエンドを期待しても
それは映画の中だけで、
僕は主人公に選ばれなかった。
その日はいろんなことを思い出して、
感傷に浸って、
それからはもう二度とその空き地に行くことはなくなった。
それから数年後、僕も結婚して子供が生まれた。
久々に実家に帰ると、
あの頃二人で夕暮れまで遊んだ小さな空き地に、
ビルが建っていた。
こうやって時間が流れていく。
誰にとっても同じように。
それぞれのハッピーエンドに向かって。
家に帰ると、僕を2つの笑顔が包んでくれる。
家の中でハンモックに揺られる君たちを見て、
また明日もがんばろうって思うんだ。
この話はステマです。
完全にステマです。
うちのハンモックの宣伝です。
ただふつうのステマと違うのは、
これを書いててなぜか涙がでそうになったってことです。
涙がでそうになるけど
ステマ
です。