ベトナム恋愛宣言
2014/10/21 Tuesday
第二話 約束の日。
―数日後。約束の日。
ミミちゃんが来た。
初めて会った日と変わらない笑顔を携えてやってきた。
「じ…じゃあ、行こうか」
「ウン」
この高揚感。それと同時に襲う緊張感。
口から心臓が出そうなほど、興奮していた。震えていた。
「ノビタ、ドウカシタノ?」
その様子が彼女にも伝わってしまったのか、心配そうな声で覗ってきた。
「いや、大丈夫だよ」
気丈な声で答える。
そうこうしているうちに、レストランへ着いた。
…そこからはよく覚えていない。
幸せな時間を過ごしたということは確かだ。
「ワタシノコト…スキ?」
ミミちゃんが耳元に顔を近づけて呟いた。
「ノビタハ、ワタシノコト、スキカッテキイタノヨ?」
視線がぶつかる。交差する。
のびたの興奮は、最高潮に達した。
「……好き、だよ」
…先ほど“幸せな時間を過ごした”と書いたが、実はこの話には続きがある。
あの直後。
ミミちゃんから店に寄りたいと言われた。
勿論、そういったことをするためにだろう。のびたはすっかりその気になって、言われるがままについていった。
店に着くと、すでに酒やつまみの類が用意されていて、少し違和感を感じた。
今日のことはミミちゃん以外には言っていないはずだが、何故こうも準備がいいのだろうか…。
「ノビタ、適当ニオ酒頼ンデイイヨネ?」
「え、あ、うん…」
きっとミミちゃんは照れてるから、先にお酒を入れてしまおうということなのだろうと勝手に解釈した。
が、それは間違いであるとすぐにわかった。
―最初から一ミリも疑わなかったのは完全に彼の落ち目だろう。
酒やつまみを一通り楽しんだところで、ごく自然に伝票が登場した。
そこには彼女―ミミちゃんと過ごした分の代金も上乗せされた額が掲載されていた。
要するに、『ミミちゃんと過ごした時間の、つまりは同伴代』を請求されたのだ。
「はあああああっ??!!」
流石ののびたもびっくりして叫んでしまった。
あれは個人的に誘ったつもりだったのに?店の延長線と思われた?
いやそもそもミミちゃんはのびたに気などなかった…?
次の日、のびたは上司に愚痴った。
「あの女…最初から僕に気なんてなかったんですよ…!」
「それは大変やったね」
「僕の純真な気持ち返せって感じですよ…」
「まあそんなこともたまにはあるやろ…そもそも、スナックで会ったっちゃけんさ」
「そうですけどお…!でもお…!!」
「…女の尻追っかけてる暇あるなら早く仕事覚えろや怒るぞ」
「…」
またいつも通りの忙しい日常に戻るのであった。